愛するものたちとの日常。


by candy-k1
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映画、覚書き

くじ運の良いお友達のおかげで「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(公式サイト)の試写会に行く事ができました。
(ありがとう!!)

注:完全ネタバレになるので、その旨ご了承いただけた方は、以下にお付き合いくださいませ。
それと・・・とても長くなります。

●あらすじ(チラシより抜粋)

20世紀初頭のカリフォルニア。鉱山労働者(ダニエル・デイ・ルイス)が石油採掘によって富と権力を手に入れていく姿を描き出す。
アメリカンドリームを衝き動かしてきた闇の力ー《欲望》を、冷徹なまでの誠実さで赤裸々に描ききった魂の叙事詩である。
大地から噴出す石油は、まるで欲望という名の血のように主人公の魂を毒していく。
彼の危険なまでの自立精神は、強欲、誘惑、腐敗、欺瞞といったあらゆる悪徳を糧にして、人との共存が不可能なモンスターへと化していく。
血塗られた破滅の予感を、密かに漂わせながら。



↑のような内容が、どの映画評のあらすじを見ても書いてあったので、どれだけ冷血な男なのだろうと思っていたのだが。
確かにダニエル・デイ・ルイス演じるダニエルは、自分の石油ビジネスを成功させるためへの執着は激しく、山師のごとく人を丸め込む交渉術、損得の駆け引きとそれを見抜く目を持つ。
そして自分に危害を与えるであろう裏切りに対しては、冷徹な判断力をもって切り捨て、目的を達成する男だ。
自分の息子すらも、ビジネスに利用している節もある。

石油という、今もって人を狂わせる、壮大なビジネスにとりつかれた男の側面が、この映画の大きな柱であると思うが、どちらかというと、私はもう一つの柱、孤独な男ダニエルの側面、そして彼にまつわる人間関係・・・・ここでは主に親子関係・・・・・が、目に留まり、心に響いてきた。


石油採掘で親を失った赤ん坊を、自分の息子として、また、ビジネスの片腕とし(とはいえ、子を連れてのビジネスを、美徳として利用していたが)、ある事故が発端で聴力を失ってしまう息子。
ここが、親子の関係の崩落の始まりだ。
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事故の直後現れた、「腹違いの弟」を、ビジネスの片腕として、あらゆる交渉に同席させる様は、父の役に立たなくなってしまった絶望を更に深くさせてしまったのだろう。それまで、ほんの子供でありながら、父と対等にビジネスに関する話を深め、あらゆるビジネスの場に同席していたH・W(子の名前)にとって、耐えられない苦痛だったに違いない。
昨日まで、さっきまであった聴力を失うという、それだけを受け入れるだけでも、困難なはずなのに、だ。

ミルクに酒を混ぜ込んだモノを、父であるダニエルがH・Wに与えるシーンがあったが、きっとそうでもしない限り、H・Wは、失望と義弟への嫉妬で、寝ることもできない精神状態だったのではと、推測する。

聴力を失った子に専門的教育を受けさせるために、H・Wとともに一旦は列車に乗り込んだものの、付き添いを側近に任せ、ダニエルはH・Wを残し一人列車を降りる。
H・Wの父を求める悲痛な叫び声に振り向きもせずに駅を去るダニエルの姿は、その後のH・Wに深い傷を負わせたに違いない。
ここでもダニエルの冷徹さが見て伺える。
ビジネス成功させることを、何よりも優先させる男の選んだことは、
人の心のヒダに寄り添うことを切り捨てられる冷徹さだ。
でもそれは。
父親との確執が故に家を飛び出したダニエル自身の、愛情を与える事への不器用さでもあると感じた。



良い教師を得たH・Wは、教師とともに採掘現場に戻ってくる。
(この再会シーン、台詞がない。ただ二人の動作だけ。すごく良かったなぁ)
「義弟」だと思っていた男が偽者だと知り、男に対して制裁を課したダニエル。
もう一度H・Wをビジネスのパートナーとして、一緒に歩もうとする。
だけど。
そうはいっても、ダニエルは、H・Wの側に立って歩み寄ろうとはしない。
手話を覚えるでもなく、ただ一方的に自分の愛情を伝えるのみ。
それは、聴力を失ったH・Wにとっては、まるで理解できないわけで。
きっとそれは、H・Wの父への信頼を、更に希薄にしていったに違いない。
青年へと成長したH・Wが、ダニエルに言い渡す言葉。
かみ合わなかった愛情が、本格的になった瞬間。
信じていた子から裏切られる、耐え難い事実。
そして、ダニエルが味わう、失望と絶望。
負けじとダニエルがH・Wに言い返した、血縁の真実は、自暴自棄になった、父親の最後の強がりだったのか。
ただ。
やっぱり「親」としたら・・・・。
あんな風に言われたら、ショックだろうな・・・・と感じずにはいられない。
でも。H・Wは、自分に自信を得られら青年なるまで、父に裏切られた苦渋の中で生きてきたのかもしれないことを考えると、ダニエルの痛みは「受け入れなければならない痛み」だったのかもしれないな。

小さな頃の、親子関係が崩壊する前のH・Wと戯れる回想シーン。
間違いなく、ダニエルはH・Wを子として愛し、信用していたんだと、確信。
泣けてしまった。
ラストシーンでダニエルが言った台詞。
これは、意味合いに幅がある、余韻のある台詞だと思った。

「黒い血」である石油にとりつかれ、
他人を信じず、そして誰よりも「血」縁を信じず、それでも誰よりも強く「血」縁を求めたかったのが、ダニエルなのではないか。
義弟と偽った男に制裁を与えた後、本物の義弟が書いた日記を読みながら、涙を流したダニエル。冷徹なやり方でビジネスを貫き通す男に一瞬流れた熱い感情なのでは、と感じた。

富を得たダニエルが失ったモノ。
見終えて時間が経つにつれ、じわりじわりと、いろんな余韻が広がっていった。

そんなわけで。
私には、ダニエルが、しょうもない冷徹人間には思えなかったのだ。
(確かに冷徹な側面を持ち合わせ、その感情をむき出しにした時のダニエルはやはり「冷たい人間」なのだけれど)
そんな風に感じた私は・・・・・。
冷徹な悪人「山師・ダニエル」に、うまいこと騙されただけなのかしら?
だとしたら、完敗です(笑)。

******
長くなりますが、もう一つ。
石油採掘の舞台となる地で、異様な存在感をもって登場するポール・ダノ扮するイーライ。
この男こそ。
聖職者の仮面をかぶった、山師だ。
薄皮を剥げば、その下にあるのは、金・自己顕示欲・野心に満ちた強欲な男の姿だ。
自分の欲望を分かりやすく他者に伝える山師のダニエルは、私にとってはまだ受け入れやすい。
人格者を装い、正当な教えを装ってはいるものの、宗教を利用して(はっきり言ってカルトだと思った)人の心をマヤカシていくこの男に、嫌悪感を覚えずにはいられなかった(正直、風貌からして受け入れがたい・笑)。
当初からそれを見抜いていたであろうダニエルと、イーライの山師同士の対決の部分も、目を見張るところ。

レディオヘッド、ギターのジョニーが担当した、異様な世界観をかもし出す音も、圧巻。

ダニエル・デイ・ルイスの演技は、言うまでもなく、素晴らしかった。
2時間38分の長丁場の映画だったけれど、それをも感じさせない、引き込まれる映画でした。
しつこいようだけれど。
アカデミーの作品賞を取ったノーカントリーより、こちらの映画のほうがその賞にふさわしいのでは?と、個人的な意見です。

まだまだ言い足りない(ここまで長々書いて、まだ言うか・笑)けれど、これにて終了。
お付き合いくださった皆様、ありがとう。
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by candy-k1 | 2008-04-18 15:38 | 映画 音楽  本